T-ch No.2 「肝臓・膵臓とアルコールについて-耳の痛くないお話-」
お酒を飲みすぎると肝臓や膵臓に悪い、ということを知っている方も多いかと思います。
でも、一滴も飲んではダメ、とは言いません。どのくらいまでなら飲んでいいのか、飲むときにはどんなことに注意したらいいのかをお話しします。
お酒によって肝臓や膵臓が痛んでしまう、ということは、皆さんよくご存じだと思います。
確かにアルコール性肝障害や、アルコール性膵炎はとても危険で、特に大量かつ習慣的な飲酒が重症の肝障害や膵障害の原因となり命の危険を生じることもあります。
ではどうしてアルコールが肝臓や膵臓に障害を与えてしまうのでしょうか。
アルコールを過剰に飲むと、アルコールそのものや、アルコールが体の中で形を変えた毒物(アセトアルデヒド)によって、肝臓の細胞に直接障害を与え脂肪の蓄積(脂肪肝)や繊維化(肝硬変)を引き起こすと言われています(図1)。
さらにお酒飲みのひとの多くは「あて」しか食べないために、カロリー不足・必須栄養素の欠乏によって肝臓へ脂肪が蓄積し(脂肪肝)、細胞の障害が悪化してしまいます。また腸のバリア機能も弱まって腸内細菌も異常となり、それらも間接的に肝障害を悪化させます。
肝障害の第一歩としてのアルコール性脂肪肝は、過剰なアルコール摂取により90% 以上のひとがなるといわれています。でもこの段階であれば、禁酒により比較的短期間に脂肪肝を改善させることができます。
アルコールを過剰に飲むことによる膵臓の障害は、肝臓と異なりアルコールそのもの、というよりはアルコールによって体内で生じた炎症物質などに他の要因が加わって膵臓が障害を受けると言われています。
その障害により普通は膵臓内では活性化されない消化酵素が活性化され膵臓自身を溶かしてしまい膵障害をもたらします。
毎日毎日多量にお酒を飲むことがいかに肝臓や膵臓に悪いかお判りいただけたと思います。
ではお酒は一滴も飲んではいけないのでしょうか?
今までにアルコール性肝障害やアルコール性膵炎と診断されたことのある方は、一滴も飲んではいけません。なぜならばアルコールによる肝障害や膵障害は、禁酒によりいったん良くなっても飲酒を再開してしまうことによる再発率が極めて高いからです。
今までに一度もアルコール性肝障害やアルコール性膵炎と診断されたことがない方はどうでしょうか?
一日アルコール20gまでの摂取であれば肝障害・膵障害含め健康に害を生じにくいと言われています。アルコール20g、とは「ビール 500mL(ロング缶1本)」「日本酒 1合」「ワイン グラス2杯」と覚えてください(図2)。ただし女性はホルモンの関係で男性より少量かつ短期間の飲酒によってアルコール性肝炎や膵炎を発症しますので、その半分量(一日アルコール10g)まで、となります。
ちなみに今年2024年2月に厚生労働省が発表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(飲酒ガイドライン)」のなかでは、一日アルコール40gまで(女性は20gまで)、という目標値が設定されています。
また、お酒と「あて」で食事のかわりとしないで、しっかりとした食事とともに晩酌として楽しむことをお勧めします。休肝日(できれば週2日)を決めて肝臓をいたわることも有効と言われています。
もし、健康診断の血液検査などで、肝臓の数値や膵臓の数値が異常であったり、人間ドックの腹部超音波検査などの画像検査で、肝臓の異常や肝臓・膵臓内に腫瘤などを指摘された場合は、お気軽に当院の消化器内科あるいは外科(肝胆膵外科グループ)外来へご相談ください。
外科(肝胆膵グループ) 教授 佐野 圭二