T-ch No.11 背中からの痛みどめ ~硬膜外麻酔
手術やお産の「痛み」が心配な方もいらっしゃるかもしれません。痛みは「我慢する」より「積極的に和らげる」方が、回復も早く合併症も少なく、望ましいとされています。硬膜外麻酔は、痛みを和らげて、安心して治療や出産に臨んでいただくための大切な選択肢の一つです。
硬膜外麻酔のしくみ
体の各部位からの刺激は、背骨の中の「脊髄」という太い神経の束を介して脳に伝わり、「痛み」として感じます。硬膜外麻酔は、この「脊髄」を包む膜(硬膜)の外側の「硬膜外腔」というすき間に麻酔薬を注入して、「痛み」の信号が脳に伝わるのをブロックして、痛みを和らげる方法です。
硬膜外麻酔は、意識を保ったまま長時間痛みをコントロールしたい場合に使います
- 無痛分娩:出産の痛みを和らげ、リラックスしてお産に臨めます。産後の回復も早いです。
- 帝王切開や下腹部・下肢の手術:(全身麻酔を避けて)意識を保ったまま手術を受けられます。
- 術後の痛み止め:「術後の痛みが強い」と予想される大きな手術でも、術後に長時間痛みを和らげ、回復がスムーズになります。
- ペインクリニック:椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、帯状疱疹後神経痛、がん性疼痛などの痛みを和らげます。
- 「痛みを伴う」治療/検査の鎮痛:身体の負担を軽減し、安全に検査や処置を受けられます。
硬膜外麻酔の手順:患者さんのご協力もとても大切です。
| 1. | 背中を丸めて膝を抱え込み、横向けに寝ます(または座ります)。 | |
| 2. | 背中を消毒し、痛み止め(局所麻酔)します。 | |
| 3. | 硬膜外麻酔の針を硬膜外腔まで進めます。針を進める間は、 できるだけ動かず、痛みや違和感を感じたら声でお知らせください。 |
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| 4. | 針から細いチューブ(カテーテル)を入れて硬膜外腔に留置します。 | |
| 5. | 麻酔薬を注入すると10分間くらいで、痛みが和らいできます。 |
硬膜外麻酔のメリット
- 意識が保て、呼吸への影響が少なく、痛みを長時間しっかり和らげることができます。
全身への負担が軽く、吐き気・だるさが少なく、呼吸がしやすく、術後肺炎などの合併症が減り、回復も早くなります。 - 管の部位や麻酔薬の濃度・投与量により、痛みをとる範囲/程度の調節がしやすいです。
- 自分で痛み止めの調節ができるます:痛みが強くなった時に、患者さん自身がボタンを押して追加の薬を投与できる「患者自己調節 (Patient Controlled Analgesia; PCA) 」機能付きのポンプを使うこともあります。
硬膜外麻酔のデメリット/リスク
- 血圧低下:麻酔の効果で末梢血管が広がり、血圧が下がり、めまいを感じることがありますが、血圧を上げる薬剤や点滴で対応します。
- 足のしびれ・力が入りにくい・尿が出にくい:硬膜外麻酔の効果で一時的に起こることもあります。
- 頭痛(硬膜穿刺後頭痛):麻酔の際に硬膜に傷がついて穴が開き、頭痛が起こることがあります。
- 局所麻酔薬中毒:局所麻酔薬が大量に血管内に入ると起こることがあります。
- 高位脊髄くも膜下麻酔/全脊髄くも膜下麻酔:脊髄くも膜下腔(脊髄のある場所)に麻酔薬が入ってしますと、急に足が動かなくなったり血圧が下がりやすくなったりします。
- 感染や出血:非常にまれですが、感染がおこり膿がたまる(硬膜外膿瘍)、出血して血腫ができる(硬膜外血腫)と、神経を圧迫して神経障害を起こすことがあります。できるだけ早く手術で血腫や膿瘍を取り除く必要があります。
麻酔科医は、血圧や酸素化、呼吸のモニターを行ないながら、慎重に手技を行いますが、気になることがありましたらいつでもお知らせ下さい。
硬膜外麻酔は痛みを和らげて「安心して医療を受けるための選択肢」の一つです。
硬膜外麻酔という手段を知っておくと、いざという時に大きな安心につながります。
「痛み」を和らげる手段について、疑問がございましたらどんな些細なことでも納得のいくまで麻酔科医にご質問ください。メリット・デメリットをご理解いただき、医師とご相談いただき、ご自分に合った方法を選んでいただくことは、よりよい医療への第一歩です。
ペインクリニック科 准教授 杉本 真理子


